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Herald Tribune asahi
富士鳥居 代表取締役 栗原直弘
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序
私は富士鳥居という古美術と美術工芸品の店を経営いたしております。1949年に私の父が銀座から現在の地、原宿・表参道に店を移して早や60年、この通りでは一番古い店となりました。弊店は在日大使館員の免税指定店でもあることから、日本人顧客ばかりでなく、多くの外国人の方々にもご愛顧いただいてまいりました。
今では、パリのシャンゼリゼやニューヨークの五番街と並び称せられる表参道も、本を正せば明治神宮の参道なのです。不思議な事に、海外の一流ブランドが軒を連ねるこの街では、日本人が外国のブランド品を買い漁り、むしろ外国人が弊店で日本の美術品を買うという逆転現象が起きています。
私は美術商として、また一人の日本人として、ヘラルドトリビューン朝日をお読みの外国人、さらに日本人読者の方々にも、もう一度、この日本という国を再認識していただきたく、このコラムをお引き受けしました。
 
真の国際化
私は美術品を通して多くの外国人の方々と接するうちに、「今時の若い日本人よりも、むしろ在日外国人の方が日本の事を知っているのではないか。」と、感じています。
 
まして日本の美術品や文化に関して言えば、店の前を行き交う日本の若者達よりも、間違いなく弊店の外国人顧客の皆様の方が、より多くを知っているでしょう。
私はかねてより、「日本が本当に国際化するには、先ず日本人が日本の事を知ることだ。」と、主張してまいりました。弊店を訪れる外国人に比べて、いかに一般の日本人が日本の事を知らず、また無関心であり、さらにその知識が不確かなものであるかを、私はこの原宿・表参道という街で日々実感しています。
 
知らなくてあたりまえ
私は親しい外国人のお客様には、「日本の事は、日本人に聞いてはいけない。」と申しあげております。こと、私の生業である古美術に関して言えば、多くの外国人が興味を持っている伊万里焼や蒔絵、根付や浮世絵などに関して、正しい知識を持った日本人はほとんどいないでしょう。
とは言うものの、我々日本人にしてみれば、それは知らなくて当たり前のことなのです。かく言う私も、このような古美術商の家に生まれていなければ、日本の古美術などには興味も知識もなかったでしょう。
まして伊万里焼や蒔絵を施したような漆器を使用していたのは一部の特権階級であり、一般の人間にはそれらに触れ、それらについて知る機会もなかったのです。
また根付や浮世絵なども、服装の西洋化や印刷技術の発達によって、20世紀初頭にはすでのその役目を終えていました。

 
日本人の日本知らず
先の悲しい大戦の後、日本人は食べる事に忙しく、自国の美術品などに興味を持つ余裕などありませんでした。そして一日も早い復興のためには、経済成長と国際社会への復帰が最優先課題であり、日本人は無我夢中で働き、外国との関わりを重視する必要がありました。しかし、その結果として日本人は自国のことをないがしろにしてきたのです。
今の日本で、劇場で歌舞伎を観たことのある日本人は人口の半数にも満たず、能狂言にいたっては三割にも満たないでしょう。かく言う私も、国技館で相撲を観たことがありません。
これは、アメリカ人のすべてが野球に興味があるわけでも、外国人のすべてがオペラを見に行くわけでもないことと同じで、もちろんこれは、個人の好みや趣味の問題でもあるでしょう。しかし私がここでお話したいのは、「日本人のすべてが日本のことを知っているわけではない。」ということなのです。私は、ヘラルドの読者の方々が日本に関して正しい知識を得ようとするならば、日本人の友人や同僚ばかりではなく、やはり専門的な知識を持った人、より確かな情報源を選ぶことをお薦めしています。
 
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