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Herald Tribune asahi
富士鳥居 代表取締役 栗原直弘
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本金蒔絵ワイングラス
ここに「本金蒔絵ワイングラス」という、オーストリア・リーデル製のワイングラスに、日本の蒔絵という技法を使い、金彩を施した商品があります。従来からあるヨーロッパのグラビール金彩などとは違い、「本金蒔絵ワイングラス」には本物の金粉を使用しており、その輝きと重厚感は過去に例を見ないものとなっています。
 
蒔絵とは、二千年の歴史をもつ日本の漆工技法の一種で、本来は漆の食器やお茶道具またキャビネットなどの調度を飾るための、日本独自の技術です。蒔絵を簡単に説明すれば、漆で文様を描き、漆が乾かないうちに、その上に金粉を蒔いて金彩を表します。それは、画用紙に糊で絵を描いた上から色の着いた砂を蒔く「砂絵」と同じ原理で、その「砂絵」の糊を漆に、色の砂を金粉に変えたものだと考えれば解りやすいでしょう。もちろん「砂絵」と違って、蒔絵の制作には数多くの工程があり、それぞれに熟練の技を要する、手間仕事を繰り返して仕上げています。
蒔絵の工程

 

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ガラスに蒔絵
今まで、漆はガラスに定着しないものとされてきました。しかし、ガラスへの定着技術の開発と、食器洗い機でも落ちない(コンパウンドの入っている洗剤は不可)ところまで耐久テストを繰り返し、私の店が2005年に世界で初めて、「本金蒔絵ワイングラス」として製品化いたしました。「本金蒔絵ワイングラス」は、ワイングラスという曲面の広がりに合わせ、日本画の余白を活かした意匠を創り、またガラスという透明な素材ゆえに、グラスの裏側や内側に見える意匠をも取り込む、三次元の表現を手に入れました。お蔭様で発売以来、「オーストリアと日本の職人技の融合」「日本から発信する唯一のワイン文化」「使える美術品」などなどの高い評価をいただき、フランス料理界のカリスマ、ムッシュ・ロビション氏からも絶賛されました。
 
このような文章を読むと、読者の皆様は、まるで私の店の商品の広告のように思われるかもしれませんが、しかしこの「本金蒔絵ワイングラス」の開発は、ただ利益をあげるための新製品という以前に、大きな目的と大義によって企画し、制作したものなのです。
 
マキエ?
「本金蒔絵ワイングラス」の商品化のために、蒔絵師達と打ち合わせを繰り返す中で、若い蒔絵師から「ガールフレンドができて、仕事を聞かれたから、『蒔絵』をしていると言ったら、養魚場で『撒き餌』していると思われた。」という話を聞きました。同じ発音である「蒔絵」と「撒き餌」、その発音から若い女の子が発想したものは、伝統工芸のラッカー・ウェアーの「マキエ」ではなく、養魚場などで魚に餌を与える「マキエ」だったのです。
 
第3クールのテーマ
このような、若い女性の勘違いによる笑い話も、我々漆工関係者にとっては決してして笑えない冗談なのです。なぜならば、これは日本人が「蒔絵」という言葉すら知らないほど、日常の生活から漆工芸が遠ざかってしまったという証拠でもあるのです。このコラムをお読みの日本人読者の皆様のお宅に、果たして何点の漆製品があるでしょうか、また外国人読者の方々は日本人の同僚や友人に、「漆の物を使っているか?」と、聞いてみるとよいでしょう。そして、その答えの延長線上には、漆製品の需要の減少と、それに伴う職人の離職や後継者の減少という現実があるのです。
 
漆製品に限らず、年々日本人自身が日本の伝統的な工芸品を使わなくなってきています。この原因は、このコラムの第一回目(2006年11月29日 ヘラルドトリビューン朝日新聞に掲載)で書いたような、「日本人の日本知らず」にあります。このような日本人自身の自国の伝統的な「物」や「事」に対する無関心によって、いつしかその技術や文化が失われ、やがてそれらを支えてきた日本人の意識や在り方までもが失われつつあるのです。
 
もう、賢明な読者の皆様はお解りのように、私が「本金蒔絵ワイングラス」を企画製作した本当の目的は、需要の少なくなった食器やお茶道具にではなく、蒔絵を現代の生活に合ったワイングラスに施すことで、伝統の「美」と「技」を守り伝えてゆくことにあります。そして、その延長線上には更なる大義があるのです。今回から始まる第3クール4回の連載では、過去のコラムの中で、読者の皆様の関心の高かった「失われつつある日本文化の実態と、その原因。」を、より具体的な例を挙げながら、掘り下げて行きたいと希望しています。
 
(つづく)
 
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