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Herald Tribune asahi
富士鳥居 代表取締役 栗原直弘
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教育の恐ろしさ
このコラムは日本語で執筆したものを、ヘラルド・トリビューン朝日新聞と提携関係にある、株式会社ファイネックス(www.finex.co.jp)の桑原信彦社長のご好意で翻訳していただいております。7月25日に掲載したコラムの翻訳段階で、
 
"The cultural naivete can also be attributed to a distortion of post war education that has led us to believe that Japanese tradition caused WWII."
 
となっていた部分を、朝日新聞英文メディアチームの山田千寿さんから、「これでは、栗原さんの意図が正確に伝わらない。」という、ありがたいご指摘をいただき、この部分を翻訳しなおして掲載いたしました。(バックナンバー参照
 
日本語という複雑な言語の翻訳には限界があり、後々このコラムで「日本語」についても書くつもりでおりますが、私があの部分でお話ししたかったのは、「戦後の日本では、自国の伝統や文化すら、先の戦争と結び付けて、否定するような教育がなされてきた。」ということなのです。それが、前回のコラムの最後にお話した、「日本など無くても生きてゆける。」という、一部の人達の意識を生み出しているのではないでしょうか。

 

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本当の評価
敗戦後、日本人の眼に飛び込んできたのは、物質文明を謳歌するアメリカの姿であり、それは敗戦によって自国への自信を失っていた日本人にとって、眩いばかりの情報や映像でした。このようなPR活動によって、占領下の日本では、アメリカ的なものは「善」であり、日本的なものは「悪」であるかのごとく扱われてきたのです。これは、日本の気候と風土に培われ、二千年の歴史と文化に育まれた、日本古来の風俗や習慣にまで及びました。
 
日本人は諦めとともに、すべてを受け入れ、一日も早くアメリカの映像にあるような物質的に豊かな生活を夢見て働き続け、よりアメリカ的な在り方を模索する中で、日本の伝統や文化を蔑ろにしてきたのです。もちろんこれは戦後の占領政策の一環でもあり、それに沿った日本政府の方針でもありました。そのような流れの中で、日本人自身が伝統的な工芸品を使わなくなり、それらに関する知識すら失ったのです。そして戦後60年、とうとう日本人は自国の伝統や文化までも、古めかしく価値の無いもののように扱い、その結果、日本人は正義や道徳までも失い、現在のような混乱を生み出しています。日本の伝統や文化、日本人の美徳は、むしろこのコラムをお読みの在日外国人や海外の識者の方達によって評価、賞賛されているのです。
 
滅私奉公
戦前の日本では、すべての人が高校や大学をめざすのではなく、「丁稚」や「奉公」といった、職人の工房や商家で働きながら手に職を着ける道がありました。これは「徒弟制度」と呼ばれ、13歳から20歳という多感な時期に、仕事を通じて「物造りの心」や「奉仕する喜び」を学び、「学歴」や「収入」に関係なく、仕事に対する「誇り」や「遣り甲斐」を育てました。また仕事ばかりでなく、雇い主が親代わりとなって、人としての「礼儀」や「作法」、物事の「筋」や「道理」を教えたのです。確かに、戦後の教育を受けた我々にとっては、「丁稚」や「奉公」という言葉には前近代的で封建的な響きがあり、「徒弟制度」からイメージするものは、はっきりとした上下関係の中での「辛抱」や「我慢」といった非人間的な扱いです。
 
しかし、このようなイメージは小説や映像によって誇張されたものも多く、「徒弟制度」は決して辛いだけのものではありませんでした。また、日本の労働形態を表現する言葉に、「滅私奉公」がありますが、この言葉にもまた大きな誤解があり、これは「私を虚しくして、他に尽くす」ことではなく、「私利私欲を捨て、公に奉ずる」ことなのです。
 
日本の再認識
 このように、長く日本人自身が日本の伝統や文化を蔑ろにしてきたことは、日本の伝統工芸においても、職人の技能低下や後継者問題など、その衰退の原因となっています。云ってみれば、伝統工芸を使わない世代が、伝統工芸の世界に身を投じるわけもなく、さらにその技術指導においても、伝統や年季を重んずる世界は、自由を履き違えた若者達にとって窮屈でしかないでしょう。さらに、そのような若者達に一から「物造りの心」を教えることは、教える側にとっても、大変な「忍耐」と「辛抱」を要求されるのです。
 
 ただ伝統工芸の技術を残すだけならば、各地に専門学校や美術大学もあり、加えて近年では多くのカルチャーセンターなどでも伝統工芸の教室が開かれています。しかし、私が目差しているのは、「ただ物が作れればよい。」という事ではなく、日本の「物造りの心」を基にした「プロとしての技能と意識」なのです。そして、このような後継者育成と技術向上のための活動の一つが「本金蒔絵ワイングラス」なのです。現代生活に即した、ワイングラスに蒔絵という新しい発想によって、若い職人達に夢と仕事を与え、その需要による生活の安定とともに、彼らの技能と意識の向上を目的としているのです。そして何よりも、このような活動を通じて、日本人自身が「日本の美」や「日本の物造り」の素晴らしさを知り、日本の伝統や文化を再認識して、自国に対する意識と誇りを取り戻してもらいたいと希望しているのです。
 
(つづく)
 
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