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Herald Tribune asahi
富士鳥居 代表取締役 栗原直弘
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第3クールの最終章
6月末から始まった第3クールでは、オーストリア・リーデル社製のワイングラスに京都の蒔絵師が本格的な蒔絵を施した「本金蒔絵ワイングラス」の製作を例に上げて、日本の「伝統工芸の危機」と「伝統工芸の新しい試み」についてお話し、前回のコラムでは、日本人が自国の伝統工芸や文化に無関心であることの根本には、日本の戦後教育に問題があることをお話しました。そして、第3クールの最終章となる今回は、先ず以って「伝統工芸などなくても生きてゆける。」「国(日本)などなくても生きてゆける。」という、一部の人の意識についてお話したいと思います。
 
20世紀の文明は、民主主義や資本主義という言葉の裏に隠された、競争原理や拝金主義がその根本を成しています。その原理主義からすれば、「金銭的な利益を生まない伝統や文化は必要ない。」ということなのでしょう。現在の加速度的なグローバリゼーションとは、国という枠組みを排し、グローバル・スタンダードという名の下に、資本や資産の統制による一極化を目差しています。このような流れの中で、何故私が、伝統工芸やその技術を守ろうとしているのか、それは、それぞれの国の文化や芸術こそが、自らの存在を認識する重要な要素であり、人が人として、人間らしく生きるための根本だと考えているからなのです。

 

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文明の歪
英国の産業革命に始まる、文明の爆発によって、確かに人類の生活は便利になりました。市場には様々な商品が溢れ、情報一つを取っても、100年前には考えられないほど、世界中の情報を手にすることができます。そして、それらは人類の生活を豊かにし、無限の繁栄をもたらすかのように見えました。しかし近年、このような繁栄にも歪が見え始めています。
 
物質文明や貨幣経済を推し進めるあまり、人間が切り捨ててきたもの、置き去りにしてきたものは、物心を問わず数多くあるでしょう。そして近年、「人間が選択してきた科学技術や文明の中に、地球上の生命や地球自体にとって有害なものがなかったか。」、また「人類はそれをきちんと取捨選択してきたのか。」という議論が始まっています。これは、「地球環境」を初めとして、「種の保存」をも含んだ、人類への大きな問いかけでもあるのです。本来、人類すべての繁栄を目的としたはずの20世紀の文明とは、いったい何のため、誰のための繁栄だったのでしょうか。
 
Lacquy-marker
例えば、「漆」という天然の素材一つをとってしても、戦後の日本では科学塗料の便利さばかりがPRされ、かつては「漆の国」と呼ばれた日本でも、「漆」自体の生産量が激減しました。いずれは土に還り、燃やしても有害な物質を出さない、この美しい「漆」という塗料を衰退させたのは、いったい何のため、誰のためだったのでしょうか。私は今年、日本産の薄い板に「漆」を塗り、その上にさまざまな伝統技法で文様を施した、「漆」塗りの書籍用の「栞」、商標“Lacquy-marker”を商品化しました(11月発売)。この“Lacquy-marker”には、日本人自身に「天然の素材」である「漆」の良さを見直してもらうと同時に、「日本の伝統と文化を守り伝える。」という大義があります。そして、この“Lacquy-marker”は、21世紀のエネルギー問題をも含め、全世界の人々に向けた、「人類にとって本当に必要なものは何か。」という問いかけでもあるのです。
 

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本当に必要なもの
私は科学や文明を否定する者でも、回顧主義者でもありません。まして極端なスローライフ推進者でも、流行の精神世界の信奉者でもありません。しかし、「人間も地球上における生物の一種にすぎない。」という観点から見れば、地球は微生物から人類にいたるまで完璧な相互依存によって成り立っています。この偉大な地球の営みを、人間の勝手や欲望のために、生命の連鎖や循環を断ち切ってきたことを、人類は謙虚に反省すべきではないでしょうか。
 
効率や利益が優先される時代にあって、読者の皆様にもそれぞれの考えと、お立場があるでしょう。しかし、もう「漆」は必要ないのか、そして何故「伝統」や「文化」は退けられてきたのかを、我々は知る必要があります。そして、「人間にとって本当に必要な物とは何か。」、「本当の豊かさとは何か。」、「本当の幸せとは何か。」を考える時、個人の利害や目先の利益、所属する組織や指導者の理論ではなく、一人の人として、自らの内なる心の声に、一人ひとりが耳を傾ける時が来たのではないでしょうか。
 
(つづく)
 
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