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Herald Tribune asahi
富士鳥居 代表取締役 栗原直弘
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私は、日本語という独特の言語が、日本人の「考え方」や「在り方」に大きな影響を及ぼしてきたと考えています。お蔭様で、このコラムの連載も12回目を迎え、今回から始まる第4クールでは、「日本語と日本人」と題してお話ししたいと希望しております。
 
日本語と日本人
明治の開国によって、日本を訪れるようになった外国人が何よりも驚いたのは、チョンマゲに代表される日本人独特の風貌や文化ではなく、日本人の「礼儀正しさ」や「勤勉さ」だったと云われます。またそれは、言葉の壁を越え、貴賤をも問いませんでした。さらに戦前の日本が国際社会で高い評価を受けていたのも、一部の日本人の語学力もさることながら、やはり日本人の伝統的な「考え方」や「在り方」によるものでした。
 
私は長年、「日本が本当に国際化するためには、先ず日本人自身が日本のことを知るべきだ。」と、主張してきました。昨年12月のこのコラムで取り上げた、藤原正彦氏のベストセラー「国家の品格」を例に挙げるまでもなく、「たとえ語学が堪能であろうとも、自国に関する知識がなければ、国際人としては通用しない。」という現実を、このコラムをお読みの日本人読者の皆様は良く知っておられるでしょう。近年一段と、日本人の海外留学や研修も増え、バイリンガルな日本人も多くなってきましたが、ここで改めて母国語である日本語について考察したいと思っております。

 
特殊な地勢
広い意味で言えば、日本は世界でも稀な単一民族、単一言語の国家です。比較的に温暖な気候で、めりはりのある四季があり、清らかな水と食物に恵まれた美しい風土の中で、日本人は大自然に対する畏敬の念と感謝の心を基本として生きてきました。また日本は、極東に位置する島国であることから、文化や文明の終着点という地理的条件にありました。さらに隣国とは海を隔てていることから、先の大戦までは、他国の侵略による文化や言語の「塗り替え」がありませんでした。このような恵まれた環境の中で、日本はゆるやかに外国の文化や文明を取り入れながら、独自の言語や文化を熟成させてきたのです。
そして、この二千年の歴史の中で培った、日本人の特質ともいえる「異文化や異なる宗教を、否定や破壊することなく、柔軟に取り入れ、融合してゆく。」という、「享受」と「和合」の精神こそが、この国の根本を成しています。そして、このような日本人の精神性が日本語の成り立ちにも大きな役割を果たしました。

 
漢字の導入
有史以前から日本で使われてきた「大和言葉」は、未だにその源流が解明されないほど独特なものですが、古代の日本には文字がありませんでした。日本は独立を維持しながらも、中国という強大な隣国の影響を受け、大陸からの文物の流入によって日本人は漢字を目にするようになります。日本では、1世紀頃の小国家成立の段階で、その国造りや律令を中国に学び、概ね5世紀頃から公の場では中国の文字、「漢字」を用いて中国語(漢文)で表記していました。
私は、「日本語への漢字の導入こそが、後の日本人に大きな影響を与えた。」と、考えています。

 
時を移さず日本人は、「漢字」一文字一文字に、中国語の発音とは別の、「大和言葉」の「音」と「意味」を当てはめ、「和歌」などの表記に取り込んでゆきます。これが、「音読み」といわれる日本語の「音」を表す読み方と、「訓読み」といわれる「意味」を表す読み方の基礎となってゆきます。当初、この二つの読み方は、中国語で書かれた「漢文」を翻訳する(読み下す)ためのものでしたが、日本人はこれらを自由自在に使い分け、「漢字」を「日本語」の一部として取り込んでゆきました。
 
日本独自の「表音文字」
日本人は「漢字」の導入によって「文字」を手に入れたばかりでなく、それらを日本語に取り込むことで、後々の日本人の「感性」や「意識」に関わる、大きな二つの進化を果たしました。その一つは、元々が象形文字である「漢字」それぞれに、日本語の意味を当てたことで、「日本人は字面による、瞬間的な判断力と、物事を想像する情緒を得た。」と、私は考えています。この「能力」については、次回のコラムで詳しくお話したいと思います。
またもう一つの進化は、9世紀頃に「漢字」を簡略化して、「音」だけを表現する50の記号(文字)を発明したことでしょう。これは、日本独自の「表音文字」で、「漢字」を「真名」と呼ぶのに対して「仮名」と呼ばれ、「ひらがな」「カタカナ」の二種類があり、またそれぞれに使い分けがあります。この「仮名」と「漢字」と組み合わせることによって、日本語の文字表記の間口は一段と広がり、日本人の物事や感情、森羅万象に対する表現に奥行きが与えられました。また逆も真なり、私は、「文字表現の間口や奥行きの伸長が、同時に日本人の感性や情緒の広がりや深みとなった。」と考えています。そして、この「仮名」を発明した最も大きな功績は、数多くの「漢字」を覚えずとも「読み書き」ができるようになったことであり、後にこれが宮中の女性を始めとして、日本人全体の識字率を飛躍的に向上させるきっかけとなりました。
 
(つづく)
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